サプライチェーン攻撃:見えない敵に潜む脅威
近年、サイバー攻撃の手口はますます巧妙化しており、企業にとって大きな脅威となっています。中でも、サプライチェーン攻撃は、従来の防御方法では防ぎにくい厄介な攻撃として注目されています。
サプライチェーン攻撃とは?
サプライチェーン攻撃とは、企業が利用するソフトウェアやサービス、ハードウェアなどに不正なコードを仕込み、間接的に企業を攻撃する手法です。攻撃者は、企業自体のシステムを直接攻撃するよりも、サプライヤーなど第三者を経由することで、巧みに防御網を潜り抜けます。
サプライチェーン攻撃の手口
サプライチェーン攻撃には、様々な手口があります。以下に代表的な例を紹介します。
1. ソフトウェアアップデートの改ざん
ソフトウェア開発ツールやソフトウェアアップデートに不正なコードを混入させ、利用企業にインストールさせる手口です。2023年7月に発覚したSolarWindsへの攻撃が代表的な例です。
2. ハードウェアへの不正アクセス
製造段階でハードウェアに不正なコードを仕込む手口です。2018年に発覚したMeltdown/Spectreの脆弱性が代表的な例です。
3. サービスプロバイダへの攻撃
企業が利用するサービスプロバイダが攻撃を受け、その影響で企業も被害を受ける手口です。2023年12月に発覚した米政府機関への攻撃が代表的な例です。
オープンソースソフトウェアは多くの企業で利用されていますが、その脆弱性を悪用して攻撃を行う手口です。2021年に発覚したLog4jの脆弱性が代表的な例です。
5. ランサムウェア攻撃
サプライヤーに対してランサムウェア攻撃を行い、データを暗号化することで、間接的に企業に被害を与える手口です。2021年に発覚したKaseyaへの攻撃が代表的な例です。
サプライチェーン攻撃の被害例
サプライチェーン攻撃は、様々な企業に被害を与えています。以下に代表的な例を紹介します。
2017年: ウクライナの税務会計ソフト「MeDoc」に不正なコードが混入され、ウクライナ政府や企業など数万台のパソコンが感染。
2020年: 米国のIT企業SolarWindsのソフトウェアアップデートに不正なコードが混入され、米政府機関や民間企業など数千の組織が被害。
2021年: 米国の石油パイプライン企業Colonial Pipelineがランサムウェア攻撃を受け、操業停止に追い込まれる。
日本企業におけるサプライチェーン攻撃の事例
1. JTBグループ(2021年)
JTBグループは、利用する旅行予約システムに不正アクセスを受け、約94万件の顧客情報が流出しました。この攻撃は、システム開発企業の社員が不正なアクセスを受け、システムにバックドアが仕込まれたことが原因でした。
2. NTTデータ経営研究所(2022年)
NTTデータ経営研究所は、ランサムウェア攻撃を受け、約7万7千件の顧客情報が流出しました。この攻撃は、サプライヤーのシステムに脆弱性が存在し、そこからランサムウェアが侵入したことが原因でした。
3. 三菱電機FAシステム(2022年)
三菱電機FAシステムは、ランサムウェア攻撃を受け、国内外の約1200社が影響を受けました。この攻撃は、サプライヤーのシステムに脆弱性が存在し、そこからランサムウェアが侵入したことが原因でした。
4. 経済産業省(2023年)
経済産業省は、外部委託先のシステムに不正アクセスを受け、約4万件の個人情報が流出しました。この攻撃は、外部委託先のシステムに脆弱性が存在し、そこから不正アクセスが行われたことが原因でした。
5. 凸版印刷(2023年)
凸版印刷は、ランサムウェア攻撃を受け、国内外の約700社が影響を受けました。この攻撃は、サプライヤーのシステムに脆弱性が存在し、そこからランサムウェアが侵入したことが原因でした。
これらの事例から、日本企業はサプライチェーン攻撃に対して脆弱であることが分かります。
サプライチェーン攻撃への対策
サプライチェーン攻撃は、従来の防御方法では防ぎにくい攻撃です。以下に、サプライチェーン攻撃への対策を紹介します。
サプライヤーのセキュリティレベルの確認
取引先となるサプライヤーのセキュリティレベルを定期的に確認し、リスクを評価する。
ソフトウェアアップデートの検証
ソフトウェアアップデートを適用する前に、必ず検証を行う。
ゼロトラストセキュリティの導入
従来の境界型セキュリティモデルではなく、ゼロトラストセキュリティモデルを導入することで、サプライチェーン攻撃を含む様々な攻撃への防御力を強化する。
サプライチェーン攻撃は、企業にとって大きな脅威です。被害を防ぐためには、サプライチェーン全体を視野に入れた対策が必要となります。
日本企業が直面する課題
サプライチェーン攻撃に対して、日本企業は以下のような課題に直面しています。
1. セキュリティ意識の低さ
サプライチェーン全体のセキュリティリスクを認識していない企業が多く、対策が遅れています。
2. サプライヤーのセキュリティレベルの把握不足
取引先となるサプライヤーのセキュリティレベルを定期的に確認し、リスクを評価する体制が整っていない企業が多い。
3. セキュリティ人材不足
サプライチェーン攻撃への対策を講じるためのセキュリティ人材が不足している。
4. 政府による支援不足
政府によるサプライチェーン攻撃対策への支援が十分ではない。
まとめ
サプライチェーン攻撃は、日本企業にとって大きな脅威です。被害を防ぐためには、企業だけでなく、政府も含めた社会全体で対策を進めていくことが重要です。
本記事が、サプライチェーン攻撃への理解を深め、対策を推進するためのきっかけとなれば幸いです。